「伝えたはずなのに、なぜか伝わっていない」
「同じ方向を向いているつもりなのに、噛み合わない」
経営者やリーダーの方から、そんな声を本当によくお聞きします。

実は──すべての対人関係の“根っこ”には、心の距離感があります。
そしてその距離感は、相手と向き合えているかどうかで決まるのです。


目の向け方がズレると、すべてがズレていく

リーダーがどれほど思いを込めて言葉を選んでも、
その『目の向け方』がほんの少しズレるだけで、チームは動かなくなります。

  • 伝えたつもり
  • 聞いてくれた“はず”
  • わかっているだろう

こうした “頭の中だけの世界” で関わってしまうと、
現実の相手とはどんどん距離が開き、コミュニケーションは噛み合わなくなっていきます。


向き合えていないと、圧やコントロールに変わる

心の距離とは「近い・遠い」だけではありません。
その深い根っこにあるのは、
『今、相手と本当に向き合えているか』 という姿勢です。

向き合えていないと、人はその空いた隙間を埋めるために、無意識にこんな行動を取ってしまいます。

  • 相手を動かそうと圧をかける
  • 自分の不安を埋めるためにコントロールしたくなる
  • 気づかないうちに支配的になってしまう
  • 逆に、自分を守って距離を取りすぎる

そして最も厄介なのは、
この状態に本人が気づいていないこと。

「良かれと思っている」
「サポートのつもり」
──その無自覚こそが、相手の心を遠ざけ、行動を止めてしまうのです。


距離感の誤差が生むズレ

ある組織で、部長が若手に「もっと成長してほしい」と強く願っていました。
毎日声をかけ、逐一確認し、励ましているつもりでした。

しかし若手が感じていたのは「監視されている」「裁かれている」という重さ。
部長は向き合っているつもりでも、
見ていたのは相手ではなく、自分の頭の中だけ だったのです。

反対に、別のチームではリーダーが
「信頼して任せている」という姿勢でしたが、
メンバーには「放置されている」「相談できない」という距離になっていました。

どちらも根っこは同じ。
向き合えていないことで心の距離感が大きくズレていたのです。


じつは “人前で話すとき” も同じ

これはリーダーシップだけの話ではありません。
大勢の前で話す場面でも、まったく同じことが起きています。

緊張すると、人は目の前の人ではなく、
自分の失敗・威厳・評価 ばかりに意識が向いてしまいます。

すると本来向けるべき“相手の表情”が見えなくなり、
うまくいかないと焦りが生まれ、
その焦りがまた 支配・コントロール へと変わり、
さらにうまくいかず、
自分ばかり見つめてしまう──そんな堂々巡りに入ってしまうのです。

対人関係も、プレゼンも、研修も。
本当の鍵は、相手と向き合えているかどうか
根っこは同じなのです。


距離感を整えるために

  1. “今どこを見ている?”と自分に問いかける
     相手を見ているのか、不安や理想を見ているのか。
  2. 相手の状態を言葉で確かめる
     「どう感じている?」「ここは任せていい?」
     たった一言で誤差は驚くほど小さくなります。
  3. 圧やコントロールの兆しに気づいたら距離を調整する
     深呼吸して、一度手放す。
     『支える』 と 『支配する』 は紙一重です。

経営者・講師へのメッセージ──関係の根っこは“向き合い方”にある

組織の距離感は、立場の強い人の“目の向け方”に左右されます。
だからこそ、まずリーダー自身が自分の距離を見直すことが大切です。

向き合えていれば、距離は自然に整い、
離れすぎず、近すぎず、ちょうどよい関係が生まれます。


まとめ

  • 心の距離感は、すべての対人関係の『根っこ』
  • その距離は「相手と向き合えているか」で決まる
  • 無自覚な圧・コントロールは距離を乱す
  • 距離の誤差は、対人関係でも人前で話す場面でも起こる
  • 目の向け方を整えると、関係も組織も自然に動き始める

『向き合う』という小さな一歩が、コミュニケーションのすべてを変えていきます。