「どうしてあの人には話が通じないんだろう」
「伝えたつもりなのに、全然違う解釈をされてしまう」

コミュニケーションで悩む人の多くは、実は“特定の場面”だけでつまずいています。
けれど、仕事になるとその影響は一気に広がり、立場が上がるほど「誰かのせい」にする余地はなくなります。
そして残念ながら、言葉を使わずに生きていくことはできません。
だからこそ、避けずに向き合う価値があるのです。


コミュニケーションは「感覚」ではなく“技術”として鍛えるべきもの

もしあなたの言葉が“単なる要望レベル”で済むなら大きな問題にはなりません。
しかし、要望すら受け取ってもらえない、あるいは「あなたの要望なんて聞きたくない」と距離を置かれてしまう状態は、組織にとってもあなた自身にとっても危険信号です。

時代が変わり、強制力や上下関係だけでは人は動きません。
特に今は「風の時代」と呼ばれ、価値基準の中心は“自由・相互尊重・自然な関係性”へシフトしました。
お金を払えば動いてくれる、そんな時代はとっくに終わっています。

だからこそ、言葉をどう届けるかは生き残りの技術そのものです。


人は“言われた内容”ではなく“感じた印象”で動く

人間の脳は、言葉を「音」として受け取ったあと、瞬時に“感情フィルター”を通して解釈します。
そのため、内容が正しくても、

  • トゲがある
  • 雑に伝わる
  • 押しつけを感じる
  • 相手の状態を無視している

こうした印象が一瞬でも走ると、内容そのものを受け取る前にシャットアウトされます。

つまり、「伝えていること」よりも「どう伝わったか」が支配的なのです。
ここを理解していないと、「言った・言わない」「そんなつもりじゃない」論争が延々と続いてしまいます。

さらにもう一つの背景があります。

インターネットで情報が加速的に広がり、“不自然な関係性”は可視化される時代になりました。
従来は我慢していた場面も、今では「違和感があるなら離れる」という選択肢が当たり前です。

だから、伝える側の成熟度が問われるのです。


伝わらない人は「説明」ばかりして、相手の“受け皿”を見ていない

ある企業の管理職研修で、こんな場面がありました。

部下がミスを繰り返すので、上司が「もっと気をつけて」と伝えていたものの改善が見られない。
上司はさらに細かく説明し、お願いし、場合によっては注意もする。
それでも変わらない。

理由はシンプルでした。
上司は「正しい言葉」を伝えていたけれど、部下が受け取れる状態かどうかを見ていなかったのです。

部下はすでに委縮し、「何を言われても責められているように感じる」状態でした。
そこにどれだけ正論を積み上げても届きません。

対話の方向を変え、
「いま困っていることは何?」
「あなたはどうしたい?」
と受け皿を作るように関わっただけで、行動が自然に変わり始めました。

コミュニケーションは、言葉を投げる技術ではなく、
相手が受け取れる“スペース”をつくる技術なのです。


アプローチ──伝わる人が必ずやっている3つの技術

  1. 相手の状態を観察する
     表情・声のトーン・姿勢から「どんな感情モードか」を把握する。
  2. 主語を“自分”にして話す
     「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じた/こうしてほしい」と伝える。
  3. 相手の理解を確認する
     「どう思いますか?」
     「どこが難しそうですか?」
     双方向性を作るだけで誤解の9割は消える。

どれも特別な才能ではなく、訓練すれば必ず伸びる技術です。


経営者・講師へのメッセージ──伝える力は“関係性を創る力”です

責任ある立場になるほど、言葉は「指示」ではなく「影響力」へと変わります。
だからこそ、伝え方を磨くことは自分を守り、人を守り、組織を育てる行為そのものです。

「伝わらないのは相手のせい」
そう思った瞬間、コミュニケーションは停止します。

反対に、
「どうすれば届くだろう」
と発想を変えるだけで、関係性は一気に開けます。

あなたの言葉には、人を動かす力があります。
その力を育てるのは“意図的な練習”です。


まとめ

  • 伝わらない原因の多くは「技術の不足」であり才能ではない
  • 内容よりも“どう受け取られたか”が行動を左右する
  • 相手の状態を見る力と、受け皿を作る姿勢が鍵になる
  • 伝える技術は関係性を創り、組織の文化をつくる

言葉はぶつけるものではなく、未来を一緒につくるための道具です。今日からまた、磨いていきましょう。